逃げる、生き延びる、安全につながる

このところ理解を深めている「ポリヴェーガル理論」について、創始者のポージェス博士の著書「ポリヴェーガル理論入門~心身に変革を起こす「安全」と「絆」~」(春秋社)を読みました。

 

これまで、ポリヴェーガル理論に関する本を2冊読みました。

 

 

 

 

 

 

主にセラピーの観点から、トラウマ反応によってからだが闘争・迷走反応もしくは不動化(シャットダウン)に陥った際に、どのような方法を取ることが効果的かご紹介しました。

 

この2冊がポージェス博士の理論に影響を受けたセラピストが書いた本であったのに対し、ポージェス博士自身の著書を読んだのは初めてでした。

 

ポージェス博士自身は科学者であるため、本を読んでの捉え方は読み手の立場によって様々かと思います。

 

私自身は、読み進めながら自分が乳がんを患った経緯を思い出しました。

 

本日は、安全が脅かされることと病気との関連、そしてそこからどのように立ち直ればよいか、感じたことを綴っていきます。

 

ポージェス博士によると、安全とは、環境や人間関係の様々な要因と関係しており、そのリスクを評価するのはからだに存在する叡智、具体的には、神経系の構造だということです。

 

つまり、安全かそうでないかの判断は、思考によるものではなく、無意識のレベルで行われるからだの反応=神経系の内臓反応だというのです。

 

ポージェス博士の言葉を引用します。「困難に直面すると、我々の身体は、「ウソ発見器」のような働きをする。いわゆる、検知器のように働くのだ。~(中略)~我々は、我々の身体の反応をよく聞き、また相手の身体の反応を尊重し、危険を孕む世界でうまく生き残り、安全な環境を見つけ、信頼できる人間関係を作り上げることができるように、自分自身を、そして他者を援助することが大切である。」

 

生物が進化してきた中で神経系もまた変化を遂げてきたことを上記のブログでご紹介しました。

 

太古の昔繁栄していた、単独行動する爬虫類は防衛機能が非常に発達しており、危険を感じると不動化(シャットダウン)するか、闘争・迷走反応により逃げることによって生命を維持してきました。

 

その後誕生した哺乳類は社会の中で相互依存して生きる性質を持っていたことから、助け合える安全な環境を求めるようになりました。

 

そして、安全な環境であれば防衛反応のスイッチを切ることができるようになりました。

 

人間を含む哺乳類は、神経系が安全を感じている時にのみ、社会的交流(助け合いつながる)が可能になり、健康・成長・回復が促されていきます。

 

そのため哺乳類にとって社会で孤立することはトラウマ的出来事であり、健康を著しく損なうと博士は述べています。

 

さて、ポリヴェーガル理論で扱う中心的な神経が、副交感神経支配で、脳神経でもある、迷走神経です。迷走神経は脳と全身の内臓をつないでいます。

 

特徴的なのは、脳から各内臓を制御する機能(20%)よりも、各内臓から脳へ情報伝達する機能(80%)の方が多いとのことです。

 

つまり、各内臓は常に反射的に評価した情報を脳に伝えており、その情報を基に脳が判断し、からだの状態を変えていくのです。

 

もし、逃げることも戦うことも叶わないような、生命を脅かす状態だと脳が判断すると、迷走神経は不動化(シャットダウン)を起こします。

 

この時、からだは爬虫類特有の防衛反応を起こし、息をひそめて最低限のエネルギーで生命維持する状態に陥ります。心とからだが乖離し、痛みや苦しみを感じにくくなります。

 

これがトラウマに陥った人の体内で自動的に起きている状態なのですが、ポージェス博士は、トラウマ反応によって日常生活に困難をきたしていたとしても、罪悪感を持たず、自分のからだの反応を尊重してほしいと述べています。

 

博士の重要なメッセージを引用します。「それでも、あなたの反応は正しかったのです。ですから、トラウマを受けた人たちは、自分たちの身体がそう反応したことをお祝いするべきなのです。なぜかというとあなたの身体がそのように反応したからこそ、あなたは生き残ることができたのです。その反応は、あなたの命を救ったのです。」

 

その上で、自分が安全であると感じられるような環境を整えることの重要性を説いています。

 

さて、この本を読んで私は2年前、自分に起きた経験と、その後乳がんと診断が下りた一連の流れを思い出しました。

 

私は2022年の春、転職をしましたが、入社して1週間で次回更新なし(派遣切り)が決まりました。

 

 

 

 

自分でもその仕事が思ったよりきついことは実感していましたが、何とか慣れていきたいと思っていました。

 

それが、たった1週間で自分の能力が判断されたという事実にこれまで経験したことのない大きなショックを受けました。

 

そのようなショック状態では前向きな転職活動を行うことは難しく、結果的に次の転職先の判断を誤りました。

 

その会社は恐ろしいほどのブラック企業で、入社後すぐに危険な状態がわかり、密かに転職活動を始めました。

 

けれども、私の中ですぐにでも逃げ出す決意が明確ではなかったため、先方が求める入社時期を承諾できず、うまくいきそうだった転職活動は結局流れてしまいました。

 

その後私は逃げ出す気力が失せ、ブラック企業にしばらく留まることになりました。この時から私のからだは不動化(シャットダウン)が始まっていったのかもしれません。

 

既にその会社に危機感を感じていた私は、周囲と友好的に接することもできず、次第に孤立していきました。

 

また、上司の発言にプレッシャーを感じるたびに、動悸を感じたり、胃腸の不調を感じるようになりました。

 

そのようにして上司との信頼関係が崩れた結果、またも派遣切りに遭うことになりました。

 

 

 

 

けれどもこの時は、事前に十分なセラピーを受けていたことから、私は落ち着いて転職活動に取り組むことができ、運も味方して結果的に最短で次の派遣先が決まりました。

 

今思えば私は引き継ぎなどせず、すぐにでも逃げ出せばよかったのかもしれません。

 

けれどもこの局面でも最低限の仕事をこなそうと頑張った結果、ミスが増え、上司との関係が決裂し、信じられないほどのパワハラを経験しました。

 

私はこの時完全にシャットダウンしてしまったのだと思います。次に入社した会社は、温かい環境であったものの、自分の中に根付いた緊張状態がなかなか解けませんでした。

 

さらに入社直後に初期の乳がんであることがわかり、そのショックが重なってなかなか仕事が覚えられず、学習障害を発症したかのような状態に陥りました。

 

ポージェス博士も著書の中で、ご自身ががん告知を受けたときの経験を綴られています。

 

「医師から診断を告げられるときは、例え丁寧に告知されたとしても身体はシャットダウンに陥る危険がある」そうです。

 

その頃受けたキネシオロジーのセッションでは、私は悲しみや辛い感情を長い間感じていなかったことがわかりました。

 

 

 

 

 

 

今から思うと当時私の心は乖離していて、トラウマ反応によって脳の機能も心身の機能も抑制された状態だったのだと思います。

 

けれどもこの時学んだブレインジム・クリエイティブビジョンのコース内容と、共に学んだ仲間たちからの励ましにより、少しずつ元気を取り戻すことができました。

 

 

 

 

今回のブログでお伝えしたかったことは、身体感覚を大事にすること、そして、からだが危険を感じているのであれば、他の状況を置いてでもすぐに逃げて安全な環境に移るべきだということです。

 

ただ、私のように結果的にトラウマ反応に陥ってしまっても、あきらめることはありません。

 

からだは、生き延びるためにトラウマ反応を起こしました。ポージェス博士の言葉を借りると、「私たちは、より高いレジリエンスを持ち、柔軟で適応的に生きることが可能なのです。私たちは大きくて能力の高い脳を持っているのです。」

 

トラウマ反応から通常の状態に戻るには、セラピーなどの力を借りる必要があるかもしれませんが、それでも私たちは安全な環境に行くことで少しずつ本来持っている心とからだの叡智を取り戻すことができます。

 

私の場合は、現在も勤めている会社の環境がとても恵まれたものであったため、仕事でストレスを感じることもなく、穏やかな生活を送れるようになりました。

 

そして、結果的に周りの方に支えられながら、がん治療を受けることができることになりました。

 

ポージェス博士の説く安全な環境とつながりの大切さを身に染みて感じています。

 

がんは長い時間をかけて大きくなり発見されるそうなので、職場で失業を繰り返したことと直接の関連性はないかもしれませんが、生命の危機を感じたストレスにより、がんが顕在化する時期が早まったのではないかと考えています。

 

がんを告知された当初は、間違った職場に行ってしまい、適切な行動が取れなかった自分を責め、更なるストレスを感じていました。

 

が、今はそれすらも今後の人生をより豊かにするための方向転換のきっかけになったのだとしたら、そんなに悲観的になることはないのかもしれないと肯定的に受け止めています。

 

 

 

 

 

 

私は自分の経験を糧に、どんなトラウマ反応に陥っても希望を持って生きていけるとポジティブに感じることのできるようなセラピーをご提供していきたいと考えています。

 

トラウマ反応を乗り越えるために最適なセラピーがあるとしたら、それは第一にご自身が安全と感じられるセラピーであることだと思います。

 

どんな方も、ご自身の身体感覚をもとに、安全な環境を見つけ出され、セラピーを選び出していただければと願っています。

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2024.7

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2024.5

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2023.05

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2022.3

セラピスト2022.4月号に掲載されました。