つながって、安全を感じ幸せに生きる~神経系からワンネスを考える~

デブ・ディナ著「セラピーのためのポリヴェーガル理論」(春秋社)では、「つながり」という言葉が頻出します。

 

ポリヴェーガル理論で扱う迷走神経は、脳神経の1つでありながら、からだの多くの臓器と脳をつないでいる回路です。

 

迷走神経が他者とのつながりにも関係し、助け合いながら幸せに生きることにつながっている、という趣旨の内容が印象的でした。

 

神経系は安全と危険を感知するシステムです。生命の危機となるようなトラウマを体験すると、神経系は防衛するための状態に移行します。

 

しかし、すぐに防衛パターンに結びつくわけではなく、他者との「協同調整」という段階を踏みます。

 

協同調整とは、たとえ不安定な状態があったとしても、その状態を修復するための試みです。この段階で他者と適切なつながりを保てていれば、また元の状態を取り戻します。

 

協同調整の感覚は幼少期に主に養育者との関係で育まれます。

 

この時期にトラウマとなるような出来事を経験していたり、養育者自身が自己調整ができていないなどの理由で安全な関係を築けないと協同調整が難しくなります。

 

そうすると、子どもは次第に他者と協同調整することをあきらめ、つながりを避けるようになります。次第に防衛パターンが強化され、自分自身で調整するしかないという状態に移行します。

 

ポリヴェーガル理論の考案者ポージェス博士によると、神経系に組み込まれているこの防衛反応は生物の進化によるもので、生き残るための知恵だそうです。

 

引きこもりなどのシャットダウンを引き起こす経路(背側迷走神経系)は最も古く、古代の脊椎動物(6億年前)に存在します。

 

この状態にあるとき、意識はからだから乖離し、エネルギーを最小に抑えて息をひそめた状態で何とか生命維持を図ります。

 

次に闘争・迷走反応を引き起こす経路(交感神経系)に進化します。ここでは、必要に応じて闘う、逃げることができるようになります。

 

さらに、哺乳類が誕生すると、ポリヴェーガル理論で重要となる腹側迷走神経系へと進化します。これにより、リラックスした社会交流ができるようになりました。

 

腹側迷走神経系は、人間の発達段階では妊娠末期3か月~生後1年の間に発達します。

 

腹側迷走神経系が十分に機能しているとき、私たちは他者と安全につながり、助け合い、共に遊び、楽しむことができます。

 

他者に共感し困っている人に手を差し伸べることができるほか、自分を責めずに優しく接することができます。また、好奇心を持って行動することができます。

 

私たちは生きていく中で、この3つの段階を行き来しています。楽しいことが多い人生でも、時にはショックな出来事を経験することもあります。

 

そんな時、防衛反応を抑制するブレーキの役割を果たすのが腹側迷走神経系です。

 

ブレーキが機能しているとき、闘争状態、シャットダウン状態へ移行せず、何とか周りの人とつながりを保ちながら回復していく道を模索できるのです。

 

さて、ここからは私の感想を述べます。

 

冒頭にも書いた通り本を読んで面白いと思ったのは、腹側迷走神経系が機能していると安心安全を感じられるだけでなく、他者との関係にも良い影響を及ぼすということです。

 

神経系がリラックスしていれば、自分が感じる安全の合図を声の調子、顔の表情、アイコンタクトを通して周囲に発信することができるからです。

 

これに対して防衛反応が過剰に起きている時、実際に危険なことが起きていなくても、感じた危険に対処することで精一杯で周囲の世界を感じることができません。

 

安全の合図を発しなければ、周りの人も共感を示しにくくなります。周囲から切り離され孤独を感じやすくなります。

 

さらに、私が思うことは、ここで言う「周囲の世界」というのは、最終的には自分の身近な人との関係だけではないだろうということです。

 

安全を感じることが難しい人は、まずセラピストと安心できる関係を築きながら、徐々に神経系がリラックスする状態を学んでいきます。

 

セラピー以外にも、自然に触れる、動物と触れ合う、軽いゆっくりした動きをする、芸術活動(絵を描く、文を書く、音楽を聴く)なども効果的だそうです。

 

たとえ今シャットダウン状態にあっても、神経系が生命の知恵に基づき防衛反応を起こしているだけで、改善の余地があることを受け入れられるようになっていきます。自分を責める必要はないのです。

 

神経系が安心を感じられるようになると、 声や表情で感情を伝えられるようになっていきます。

 

助けを求めれば救いの手が差し伸べられます。自分を受け入れ信じられるようになっていきます。 

 

そうすれば、身近な人だけでなく自分を取り巻く世界の人たちが実はみなつながっていて、見えない形で助け合っていることを信じられるようになっていきます。

 

そして、常に必要なものはどこかからもたらされることを感じ、受け取りながら生きていくことができるように思います。

 

「ワンネス」という言葉は今まで抽象的な理論だと思っていましたが、この世界に生きる人たちはみなつながっている、ということを、神経学の観点からも感じられることができたのが本書による大きな発見でした。

 

この考え方を応用すれば、セラピーは、トラウマを負った人が立ち直るためのものだけではなく、どんな人も自分が危険だと感じているものの概念から自由になり、もっともっと世界を信じてつながって安心安全の中で豊かな生き方をすることができるのではないかと思いました。