日常の枠を超えて、自分とセラピーを再定義する

ホテルの名前は新潟県にある「里山十帖」、雑誌編集者だった岩佐氏が南魚沼で廃業する旅館を譲り受け、自身の提案するライフスタイルを体現したホテルとして10年前に開業した話題のホテルです。

 

もともと豪農の家だった建物を岩佐氏のインスピレーションを基に自由自在な発想でリノベーションされました。

 

岩佐氏が扱っている雑誌では観光業を特集することもあり、ホテル開業前から全国の旅館などを取材していました。

 

その雑誌も滞在中に読んでみましたが、最近流行りのリノベーションのホテルですら、表面だけ生まれ変わっただけの画一的なホテルや、有名デザイナーが設計して話題になっても経営的に行き詰まるホテルがあるなど、宿泊施設の裏事情は色々とあるようです。

 

そこで、「Redefine Luxury (贅沢を再定義する)」をテーマに、空間全体をライフスタイルのショールームとして展開し、独特なデザインの空間で心地よい家具に囲まれて過ごすことで、宿泊者それぞれが何かを感じ掴み取ることを目指したホテルです。

 

当初この旅はお誘いに乗った形で参加したため、私自身はどんなホテルか全く予備知識がない状態で足を踏み入れました。

 

必要以上に派手な装飾や接待はなく、心地よく過ごすことを第一に設計された空間で過ごすうちに、贅沢とは何か、岩佐氏が問いかけているものをじわりじわりと体感していく時間が始まりました。

 

各部屋はそれぞれ異なったテーマで設計されているそうで、私が泊まった部屋は岩佐氏と開業当時若手の建築家がコラボして設計したユニークなお部屋でした。

 

お部屋のバルコニーに置かれた露天風呂からは雪深い新潟の景色が楽しめ、景色すらも計算されてお部屋がデザインされているのがわかります。

 

大自然の色や音を楽しみ、そこで採れた食材を丁寧に調理した郷土料理を楽しみ、派手な味付けではない食材の味一つ一つを丁寧に味わっていきます。

 

タオルやアメニティも洗練された質のよいもので、心地よさに包まれながら眠りにつきます。

 

シンプルな空間に置かれたソファやチェアの座り心地を楽しみながら、ふとここでくつろいでいる自分のこれまでの生活を振り返っていきます。

 

これまで、高級=手が届かないものだからと興味を持つことをせず、自分の手が届く範囲内で消費する生活を送るうちに、自分の生活がいつの間にか新しい発見のないものであったことに気づかされます。

 

自分自身も、自分が定義した自分を超えることのない小さな存在であったことに気づかされます。

 

そして、たまに高級だと思うものを手にする機会があった時には、価格相応の価値を求めていたかもしれません。

 

具体的には高級なホテルに泊まったら、食べきれないほどの食事や時に過剰とも思われるおもてなしが当然だと思っていたかもしれません。

 

あるいは、普段訪れることのできない場所に赴いたらあれもしたいこれもしたいとよくばっていたかもしれません。

 

けれども、華美でない質の良いものだけに囲まれた空間で静かに過ごすときに生まれるものは、自分だけのオリジナルな発想でありインスピレーションであり、そんなものが実は貴重で贅沢なものかもしれない、と思いました。

 

価値をどうとらえるか、自分は何を大切にするか、日常の限界から少し飛び越えてみることで見える景色があるのだと思いました。

 

さて、ここまでは宿泊者としての感想を綴ってきましたが、セラピーをご提供する立場として何を思ったかを記しておきますと、セラピーを受けるお客様が何かを「感じる」ことのできるあり方を大切にしたいと思いました。

 

当サロンは都会で過ごすリトリートをコンセプトとしております。

 

リトリートとは本来自然の中でくつろぐ過ごし方であり、今回私が経験したようなゆったりとした滞在時間を意味しますが、自然の中でなくても、長時間でなくても、少しでもリトリートで得られるようなものを感じていただくことを目指しております。

 

そして、セラピーやサービスそのものによってお元気になられるのではなく、セラピーを受けることをきっかけにお一人お一人が本来お持ちの生命力が活性化することがセラピーが目指すところと考えております。

 

セラピーを受けていることすら忘れてしまうかもしれないような主張しすぎないセラピーをご提供することを改めて目指したいと思いました。

 

また、セラピーのメニューは様々あり、それぞれこんな目的のためにおすすめですよとセラピストとして概略をお伝えすることがあっても、それが全ての方にとって真実とは限りません。

 

いらしてくださった方が、これがよいかもしれないと直感的に感じられたメニューこそがその方にぴったりのものであり、そのメニューを受けられたお客様が何かを感じ得てくださることができたならば、それが何であってもセラピーなのだととらえられるような、癒しを超えたセラピーの新しいあり方をご提案していきたいと思いました。